2016年6月11日(土)に、東京都目黒区駒場の東京大学生産技術研究所で開催された『「はじめての真空」展―お弁当から宇宙まで』を観に行きました。
目的は、サイエンス作家の竹内薫氏とデザイナーの渡邉康太郎(こうたろう)氏との対談『「ない」を探す時間』を聴講するためです。
対談のテーマは以下の9つ用意されていました。
網掛けをかけたテーマが渡邉康太郎氏の用意したもので、網掛けの無いものが竹内薫氏の用意したテーマです。
大人のいたずら 小学校ゼロ ロラン・バルトのすきやき
iPhone 茶道 反物質
イヴ・クラインの 銀河 接線の彫刻
空虚展
先ず最初に、渡邉康太郎氏が、竹内薫氏の用意した『iPhone』を選びました。竹内薫氏がiPhoneについて語りました。
竹内氏は、1985年にカナダのマギル大学大学院に留学中に初代マッキントッシュを購入しました。同氏はスティーブ・ジョブスのファンです。
iPhoneはボタンが無いのを見て随分衝撃を受けたそうです。iPhoneは飛躍の象徴だと言っていました。
iPhoneの表面のガラスには金属のごく薄い膜がスパッタリングによって形成されていて、そのスパッタリングに真空技術が欠かせないとのことです。
竹内薫氏は昔研究者だったときに真空ポンプを使っていて、真空が怖い、モノが無いのが怖いと語っていました。
子供の頃に「かまいたち」の話を聴いたことも、真空に対する恐怖感を植え付けられた経験だったとのことです。
余談ですが、iPhoneの保護シートを貼るときに必ず気泡が入るので、出荷時に真空状態で保護シートを貼っておいてくれると良いと竹内氏と渡邉氏が語っていました。
次に竹内薫氏が、渡邉康太郎氏の用意した『茶道』を選びました。
渡邉氏が茶道に関連して真空を語りました。
岡倉天心が引用した老子の言葉で、
Only in vacuum lay the truly essential
室の本心は、屋根と壁に囲まれた空虚なところにある。(空虚に本質がある。)
茶道でお茶を入れるときに、煮立ったお湯に水を入れますが、水を注いだ瞬間にお湯が煮立った音が止み、静寂が訪れる。その「無」によって「有」に気付くとのことです。
両氏によると外国人の方がお茶の認識がある。
次に渡邉氏が竹内氏のキーワード『反物質』を選びました。
反物質とは普通の物質とは電荷が逆のものです。
真空では、物質と反物質が生成・消滅をしているとのことで、これを仮想(virtual)粒子と呼んでいる。
日本で、電子と陽電子を初めて見た人は、「電子が跳ね返っている」と解釈してしまったらしい。もし正しく電子・陽電子の対生成だと解釈していたらノーベル賞を受賞していただろうとのことです。
きっと、陽電子という名前を知らなかったので発見を逃してしまったのだろう。
「飛蚊症」という名前を知っていてはじめて飛蚊症を認識出来るのと同じで、認識のフレームがあってはじめて認識が出来ると考えられる。
竹内氏が、人間は記号を使うと話しました。記号を聴いてパターンを認識し、パターンを見て記号を思い浮かべる。
竹内氏は猫を4匹飼っているが、記号(言葉)の認識は無いとのことです。
次に、竹内氏が渡邉氏のキーワードの『大人のいたずら』を選びました。
渡邉氏は、スタニスワフ・レムの「完全な真空」という本を紹介しました。この本は実在しない本の書評を集めたものとのこと。
(因みに私はスタニスワフ・レムの著書は『ソラリスの陽のもとに』しか読んでいません。)
自分で選んだ本の書評を書くのは容易いが、出版社に与えられた本の書評を書かねばならないときは辛い。
存在しないものにどうアプローチするかが難しい。
次に渡邉氏が竹内氏のキーワード『銀河』を選びました。
竹内氏はダークマターとダークエネルギーの話をしました。
銀河は自転しているので、遠心力で星々が吹き飛んでしまう筈なのに吹き飛ばない。これは何か見えない暗黒物質(ダークマター)がある所為だ。
また最近の観測によると、宇宙は加速膨張している。これは宇宙を加速膨張させる未知の力・ダークエネルギーが存在するからだ。
アインシュタインは定常宇宙を作るために一般相対性理論の数式に細工をしたが、どうやらそれがダークエネルギーという形で蘇っているようだ。
次に竹内氏が渡邉氏のキーワード『ロラン・バルトのすきやき』を選びました。
ロラン・バルトはフランス政府の代表として日本を視察に来たが、その時、日本は中心の無い国だという認識を得た。
皇居は東京の中心にあるが、空虚である。
すきやきは西洋料理と違って、始まりと終わりが無い。
次に渡邉氏が竹内氏のキーワード『小学校ゼロ』を選びました。
竹内氏は小学生のときにアメリカで過ごしたそうだが、日本の小学校では先生が生徒に座学を教える形式だが、アメリカの小学校はカオスだと言う。
生徒の方がアクティブ・ラーニングしている。
現在、第4次産業革命で人工知能の発達がすごい速さで起こっている。今の小学生は半分以上は現在存在しない職業に就くだろう。
そのためアクティブ・ラーニングが必要なのだが、日本にはアクティブ・ラーニング出来る小学校がゼロである。
そこで竹内氏はフリースクールを作ってアクティブ・ラーニングを試みているとのこと。
その学校を文科省のものにするか、フリースクールのままにするかで悩んでいるそうです。
次に竹内氏が渡邉氏のキーワード『接線の彫刻(TANGENT SCULPTURE)』を選びました。
渡邉氏は「コップへの不可能な接近」という文章を提示しました。
我々が暗黙知で認識していることの明文化を試みたものです。
竹内氏が宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」について、この作品は8月13日のペルセウス座流星群が見えている時の作品なのに、ペルセウスという言葉が出てこないことに疑問を呈しました。
最後に質疑応答の時間が来たので、先ず私が手を挙げて、
「真空の定義は『周囲より少しでも気圧の低い領域』という意味なのに、竹内氏も渡邉氏も、何も無い空間という意味で使っている。私の習った真空の定義はどうしてそうなっているのか?」と質問しました。
その質問には、司会の福谷克之東京大学教授が答えてくれました。私が習ったような、「周囲の圧力より少しでも低い気圧の領域を真空という」という定義が使われる分野もあるが、物理学者の論じる「真空」はあくまでも何も無い空間という意味で使っている、とのことでした。
次の質問は、池の中で石の狐が動いたと言った子供に再現性の話をするのか?ということで、これに対しては竹内氏が、3、4年生向けには話すとのことでした。
次の質問は、身の回りの気付かない真空についてでしたが、それに対する回答は私は忘れました。
竹内薫氏は、今度「サイエンスZERO」で真空を取り上げたいと言ってくれました。
以上が対談の内容でした。とても楽しい1時間半の時間を過ごせました。
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